遂に観て来ましたよ。巷で話題の『カメラを止めるな!』。
観たいとは思っていましたが、公開している劇場がミニシアターのみということで敬遠していました。8月頭から拡大公開ということで、安定の新宿のTOHOシネマズです。
8月ももう1週間で終わるということで、ネタバレを多分に含んだ感想を書いていきたいと思います。
ちなみにこの映画は、他の映画にも言えることではありますが、ネタバレを完全に遮断して観るべき作品であると思うで、これから観る予定があるとか気になっているという方は、ここから先を読まないことをオススメします。
いつもより多めに空白を設けてみた。もういいかな?いいよね?それじゃあ、始めるよ。
良い意味で万人受けする作品である
観るなら映画館!
まず、この作品は、可能であるならば劇場で観て欲しい。
僕も1人でしっぽり映画を観るのは好きだが、『カメラを止めるな!』に関しては、人がたくさんいる劇場で観るべきだと思う。1人で見るのはもったいない。
劇場公開には限りがあるので
近々Blu-ray化されたとしても、1人ではなく家族と、恋人と、あるいは友人と一緒に観ることで作品の魅力が増し、感動が深まるように感じる。
つまり、『共感性』。僕が映画を見に行ったのはド平日の早朝だったが、スクリーンの埋まり具合は7割ほどだった。今、同じ時間に同じ場所でこの作品を観て、同じように疑問を持って、同じようにスカッとして、同じように物語に引き込まれているのを感じることで、全くの他人の間に妙な連帯感が発生する。
みんなで楽しめる映画
なぜ、このように考えるかというと、『カメラを止めるな!』は一応テーマがゾンビものなので、若干のグロ表現が含まれており、これらに拒絶反応を起こす人を除けば、万人受けとまではいかないが九千人受けくらいはするような作品だからだ。多くの人と共感しながら観るのに適している。
総評
最初は不穏な空気が漂う
総論はこれくらいにして、中身に入っていこう。
作品はまず、どう考えてもB級な映画の撮影場面から始まる。チープな演技に頭のおかしな日暮監督(濱津隆之氏)、それに付き合わされている演者達。ありきたりな映画作ってるなーという印象。
ゾンビ映画らしく、曰くつきの廃墟で撮影していたが、緊急事態発生。廃墟の言い伝え通り、ここはかつて人体実験施設に使われていたらしく、出演者のひとり、またひとりとゾンビに襲われてはそれが伝播してゾンビ化していく。最後はヒロインの子だけが生き残るというジェノサイドエンド。
途中で明らかな『屠り』が発生するため、どこまでが脚本なのかわからなくなってくる。そんな状況でもカメラを回し続ける酔狂な頭のおかしな監督を描きたいだけだろうか。
あれ?これ外れたかな?
正直面白くもなんともないストーリーである。俳優・女優たちの演技は安っぽくてハリボテみたいだし、妙な間が入って「それ、ウケ狙いなの?シュール目指してるの?」と寒い展開もあり、演技も妙にぎこちない。ストーリーにも矛盾が散りばめられていて、本当にただのB級映画だ。これが最後まで続くの?この映画って評価高いんだよね?エンドロールが流れ始めたときは、「これで終わったら逆にネタになるな」などと思っていた。
ネタばらしは華々しく豪快に
そのような疑問や不満点を感じた瞬間に、この映画の勝ちはほぼ確約されたようなもの。そう感じる点が多ければ多いほど、後半にかけて面白さが雪だるま式に増していく。
そりゃチープにもなるし、間もおかしくなる。演技のぎこちなさも出てくるさ。矛盾だって生じなかったらむしろおかしい。
なぜなら、この映画のメインは『30分ノーカットで送ることが定められた生放送のドラマ』であって、ひと癖もふた癖もある演者達が離散しようとしているところをなんとか辻褄を合わせて最後まで映像に収め切ったものなのだから。
ちなみにこの前半の部分にも評価できる部分はある。
しゅはまはるみさん演ずる晴美さんの演技すげぇ。という点である。
“映画内映画”というギミック
話を戻すと、この作品は、映画内映画(ドラマ)を収めたものなのだ。映画の中でドラマを撮影している。その撮影したドラマが最初の面白くないあの30分なのだ。
そして、ここで作品の安っぽいポスターの謳い文句である『最後まで席を立つな。この映画は二度始まる。』が活きてくる。
優しい監督に降りかかる無茶振りの数々
ドラマ、ゾンビもの、生放送、30分ノーカット
場面が切り替わり、1ヶ月前。監督がこのゾンビドラマの仕事を請け負う経緯を描く。先程まであんなに頭のおかしかった監督が仏のような優しいおじさんとなって登場する。
少し頼りないけど、めっちゃ腰の低い、優しいお父さんやないか。
「安い、早い、質はそこそこ」。そんな作品を手がける監督なのである。売れっ子では全然ない。そんな監督にとんでもない無理難題が吹っかけられる。
30分のドラマ、テーマはゾンビもの。生放送で、しかもノーカット。
そんなん無茶ですやん案件だが、監督は娘の真魚(まお)がこのドラマに登場予定である若手俳優のファンであることもあり、これを受けることにした。
アクが強すぎる面子
脚本を書いたはいいが、キャストのアクがあまりにも強い。プライドが高く理論派で頭の固いゾンビ役の若者、口癖の「よろしくでーす☆」が腹立たしいヒロインの女の子、カメラマン役のアル中、極度の神経質でお腹の弱いスキンヘッドの音声さん、助監督役の気が弱すぎる青年、乳児連れで打ち合わせに来るメイクさん。
ちょっと表現が難しいが、「ドラマ内の」監督(日暮監督ではない)もチャラチャラして信用できないし、実力はありそうだが腰をやってる「ドラマ外の」カメラマンも頼りない。ダサかっこ良さにロマンを感じるカメラ助手の女の子も個性が強い。
そんな動物園をまとめるのが監督というわけである。
リーサルウェポン晴美
様々な問題を抱えながらもなんとか形になりそうな状態で本番を迎えるのだが、キャストが乗っていた車が途中で事故に遭い、土壇場で急遽二人の代役を立てなければならないことに。ドラマ内の監督役とメイクさんだ。
舞台は人里離れた廃墟。迫り来る生放送の本番。何とかしなくては・・・。
「演劇をかじったことがあるので...」、まさかの監督がドラマ内監督を兼任することになる。そして、監督の妻であり、元女優の晴美さんがメイクさん役になるとのこと。監督曰く、「この人に絶対演技をさせてはダメ」だそうだ。
それでもカメラは回り続ける
集約される熱意、歯車は動き出す
急場凌ぎではあるが、二人はハマり役であり、手作り感満載のドラマを作っていく。晴美さんの演技が鬼気迫りすぎて怖い。
「カメラはぁーー!!止めなァーーイッッ!!!」
途中様々なトラブルが起き、その度に中断しなくてはならないか。でもカメラは止めてはならない。その板挟みの中で何とか活路を見出していく。
最初のつまらない30分も、その裏にこのような葛藤や努力やアドリブによって成り立っていたとものとわかると見え方が変わってくる。
・護身術の話がぎこちなさすぎる
・「ちょっと・・・ちょっと・・・」
・カメラが動かなくなったのは仕様なの?
・なんだこのダサかっこいいアングル!?
・晴美さん、なんで生き返ったん?
・斧を拾うシーンがカタコトすぎる件
・キャーキャー叫ぶシーン長すぎ問題
・見切れながら酷使される「ポン!」
・最後のショットの無駄な揺れは演出?
最初の30分で疑問に思ったことや引っかかったことが、後半にかけてゆっくり丁寧に紐解かれていく。
熱意は伝播する
なんとか形になっていたのは監督の頑張りもあるけれど、演者全員の熱意がなければ実現しなかっただろう。癖のあるメンツも監督の気迫に押されて少しずつ変わっていく。
もちろん作中で描かれていく様子は大袈裟であって、シュチュエーションとしても特殊なものなのかもしれないが、映像作品は多くの人間の作品完成に向かられた熱意が具現化したものと考えると、映画というものに対する見方も変わってくる。
この家族、只者じゃないぞ
ちなみにドラマのメイキングシーンでも変わらず感じたのは、
晴美さんの演技すげぇ。である。
また、途中から父親の代わりに監督顔負けの的確な指示を出す、映画監督志望の真央ちゃんの活躍が光る。
「他人を感動させるのは、本物の演技なの!」
「それは分かるんだけど、妥協しなきゃいけない場面もある」
この親子の絡みも大好きだ。監督だって目薬なんて使わずに、本物の涙を流す役者を使いたいだろう。完全に自分を空っぽにして、プライドやこだわりを捨てて役に没入する役者を使いたいだろう。
しかし、職業として監督をするからには理想を追い求めるだけでは務まらないことを彼は知っている。映画製作は、人と人との繋がりだから。与えられた環境や道具で人にメッセージを伝えなければならないから。
それでいて、真っ直ぐに映画監督を目指す真央ちゃんが眩しくて、誇らしいように感じる自分もいる。自分と同じ道を目指す娘。演者のアル中のおじさんに刺激されて娘の写真を台本に貼り付けていたシーンは込み上げるものがあった。
ドラマの完結に向けてに奔走する監督、かつての勢いを取り戻しつつある危険な女優の晴美、ひたすら真っ直ぐに自分の理想を追い求める娘の真央。なんだ、この映画家族。最高や!
あの短い時間の中で家族愛もしっかり盛り込んでいる。ポイント高いで、これ。
疑問を残さぬ親切設計
そして、最後のエンドロールでダメ出しのタネ明かし。全てが収束していく。
映画には大きく二種類あって、ひとつは『作品を丁寧に畳んで、解釈の余地や疑問を残さないもの』、もうひとつは『ストーリーは綺麗に完結させるが、解釈の余地を残して、広がりを持たせるもの』。閉じた作品と開いた作品とでも言うのだろうか。
本作は完全に前者のものだが、どちらがより優れているかではなくて、それは作品ごとに適する終わらせ方があるので、『カメラを止めるな!』については、完璧な終わらせ方だと感じた。
無駄だと思ったカットが、無駄じゃなかった。全てに意味があって、全てが繋がっていた。
観る前に作品のカラクリがわかってしまうと、感動は半減してしまうが、逆にこの感動を味わってからだと、「もう一度先入観ありきで見たい!」と思えるところも本作の魅力だろう。
最初の30分が無駄だと思ったら、そこに緻密な罠が仕掛けられていた。毒のようにじわじわと身体を侵食しているのに気づかなかった。本当によくできた作品だ。また観たい。
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