うたかたラジオ

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『ゴハンの丸かじり(丸かじりシリーズ20)』@東海林さだお

今回は『ゴハンの丸かじり』の紹介です。

「丸かじり」という言葉は大体の食べ物に適応するけれど、ゴハンに関しては“兵糧丸”しか思い浮かばないですね。

兵糧丸は、小説や漫画に出てくるときに決まって「一粒食べれば一日は腹持ちする」とか「噛み締めた瞬間に力が溢れてくる」というように表現されます。

当然これらは誇張であり、定期的に食べなければ腹は減るし、増強効果はないわけです。

しかしながら、

・炭水化物、カロリー確保のために米や蕎麦粉

・タンパク質を摂取するために鰹節や煮干し粉などの魚粉

・保存食として長期の携行に耐えうるように殺菌作用のある茶や柿の葉などのカテキンを含むもの

・血液浄化の効果を持つクエン酸確保のために梅干し、生姜やハッカなど

栄養素をコンパクトかつ効率的に体に取り入れられるよう、考え抜かれた調合がされています。携行食としては必要十分すぎるほど。

 

さすが忍者でござるな。ニンニン。

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『ゴハンの丸かじり』

2006年上半期の出来事

文庫化は2006年2月10日。この年の上半期の出来事を振り返ってみよう。

1月

・インターネット関連企業のライブドア及び関連会社を証券取引法違反の疑いで強制捜査。

・日本郵政株式会社が発足。

2月

・北海道別海町で発見され、既に死亡した国内22頭目のBSEと確認された牛が、1歳まで肉骨粉を含む飼料を与えられていたことが判明。

3月

・玩具メーカーのタカラとトミーが合併し、タカラトミーが発足。
・ソフトバンクが、携帯電話業界大手のボーダフォンを1兆7500億円で買収する契約を結んだことを発表。

4月

・wwwが使われるようになる。

・地上デジタルテレビ放送の1セグメント放送「ワンセグ」が開始。

5月

・会社法が施行。

・農林水産省、北海道今金町で飼育されていた5歳8ヶ月の乳牛が、国内26頭目のBSE感染牛であったことを発表。

6月

・村上ファンドがインサイダー取引したとして、村上世彰代表を証券取引法違反の疑いで逮捕。

・日本銀行、無担保コール翌日物金利をほぼ0%で維持するゼロ金利政策の継続を決定。

 

ライブドアと村上ファンドの事件はこの年だったんですね。すごく昔のことのような、妥当なような、そんな感覚。

ケータイ小説が流行しだしたのもこの頃らしいです。

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猫も杓子もケータイ電話で、あの頃は電車の中でパカッ!カチカチポチポチしていましたが、今では(スッスッ)に変わっただけですね。

 

それではそんな時代に世に出された『ゴハンの丸かじり』の中身に入っていきたいと思います。

 

【鰤大根の人徳】p.82-

鰤大根を食べて誰しもが思うことは一心同体ということである。

一致協力ということであり不即不離ということである。

鰤と大根、きっぱり二者、他者の介入を許さない。

ふつうなら、鰤と大根を一緒に煮たら、ここへネギ入れてみっか、とか、豆腐入れてみっか、ということになるのだが、鰤大根に限っては鰤と大根だけ。きっぱり(p85)。 

 確かに鰤大根に彩りのために人参を入れただとか、じゃがいもを入れたら意外といけたという話は聞かない。鰤と大根だけという潔さ。

他の食材を入れても邪魔しないよ、というような生易しい絆ではない。鰤と大根だけじゃないとダメなんだ。

大根といっしょに煮た鰤はもはや鰤とはいえないものになっている。

鰤といっしょに煮た大根はもはや大根とはいえないものになっている。

それでは何になったのかというと、ブリダイコンが入り混じったブダンイリコというものになっているのだ。

あるいはインブコリダというものになっているのだ。

鰤大根の味の最大の特徴は、❝お互いの味が平等に乗り移っている❞というところにある(p.86)。

二人だけの世界、のみならず常に対等。常にお互いを支え合い、高め合っている。嗚呼、純愛である。

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例えば煮物の代表格「肉じゃが」は一見して肉とじゃがいも、人参とタマネギが上手く協調し合ってひとつの料理になっているのだが、その中には序列がある。

肉が一番偉くて、ほくほくしっとりのじゃがいもが次点。人参とタマネギはあくまでサブとして料理名にもなっている二人を補佐する役割である。「なんでぇ、俺たち引き立て役かい」と思っているに違いない。

彩りに入れられる絹さやの心境に至っては語るまでもないだろう。

それでいて、肉とじゃがいもは互いに一蓮托生、不即不離の関係にあるかと言えば必ずしもそうではない。

序列があるのも不安要素であるが、それぞれが独立して個性を発揮し、独立の生計を立てていることが伺われる。夫婦というよりもビジネスパートナーに近い関係であろう。

鰤と大根に共通する朴訥な人柄は、呼応することによって輝きを増し、誰からも祝福されるベストカップルと言って差し支えないだろう。

 

【ああ、栄光の銀鉄丼】p.202-

銀火丼を発表して二十二年たった。

二十二年間、一度としてわたくしは銀火丼の名が、世間の人々の口の端にのぼったのを見聞したことがない。銀火丼は無視されたのだ(p.202-203)。

「銀火丼」と聞いてリオレウス希少種を連想した方は立派なモンハンプレイヤーなので、一緒に狩りに行こう。

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さだお氏考案の銀火丼の実態は、カツオの刺身を可能な限り薄切りにして、醤油と味醂と酒の漬けだれに漬け込む。これをゴハンの上に載せ、針生姜と刻み海苔をパラパラ。

鉄火丼のマグロをカツオにしただけのように思えるが、このレシピを見る限り不味いわけがない。

先日、特にこのお話を意識したわけではないが、カツオが手に入ったので銀火丼のような料理を作って食べた。

さだお氏のレシピとは若干異なるが、味醂を煮切ったものに醤油と少しの砂糖を加え、普通の刺身くらいの厚さに切ったカツオを漬け込む。そして、アクセントとして「入れすぎかな?」と思う直前くらいの山椒を加える。

熱々のゴハンに刻み海苔を敷いて、漬けカツオを盛り付け、白胡麻を振る。

すると、カツオ独特の血生臭さが山椒により中和され、また、たれが若干とろみがついているために鰻のたれに様な味わいに仕上がる。

カツオと相性抜群な生姜やにんにくは入れない方がいい。山椒、これが今回の発見である。

カツオを少しアレンジしてみたいと思ったときにぜひ試してほしい。

そして、西荻の巨匠ことさだお氏は二十二年の歳月を経て、更なる高みに到達する。

 

銀鉄丼である。

カツオの刺身はアジのたたき状にたたく。あんまりこまかくなくていい。

マグロの刺身のほうはやや薄切り。

このマグロと、さっきのカツオをタレにつけこむ。

まずカツオのほうを、ビタビタとゴハンの上に薄めにのせる。

その上から針生姜をパラパラ。

シソの葉をうんと細く切ったものをパラパラ。

その上に、マグロの刺身をやはりビタビタと、鉄火丼風に並べる。

その上から刻み海苔をパラパラ。

あったら白ごまをパラパラ。

そうしてワサビ。

これが構想二十二年の銀鉄丼だ(p.206)。

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これは旨いだろう。カツオを叩いてなめろう風にし、臭み消し、かつ、風味付けの生姜とシソ。

たれは22年前に考案したものと相違なし。マグロとカツオを同時に買うことはあまりないけれど、試してみたい珠玉の丼である。

 

総括

今作はいつも以上に「華美な食」ではない、日常に密着した食べ物の考察記であったように感じる。

ニラ玉だとかジャムだとか麦茶だとか家庭の匂いを強く感じさせるような素朴な料理たちが主役である。

今回紹介できなかったが、『普通のラーメン』『蕎麦屋のカレーライス』『鳥の唐揚げの出っぱり』もオススメ。