うたかたラジオ

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【ネタバレあり】色とりどりの世界はこんなにも美しく儚い。映画『今夜、ロマンス劇場で』【AmazonPrime】

『今夜、ロマンス劇場で』は映画館で一度観ているのですが、最近AmazonPrimeに追加されたということで二度目の視聴になります。

恋愛映画なのだけど、ドロドロした要素は一切なく、ひたすらに爽やかで心に沁みる作品という印象です。

今回もいつものネタバレ感想ですので、未視聴の方はご注意ください。

あらすじ

映画監督を夢見る青年・健司(坂口健太郎) が密かに想いを寄せるのは、通い慣れた映画館・ロマンス劇場の映写室で見つけた古いモノクロ映画のお姫様・美雪(綾瀬はるか)。

今は誰も観なくなったその映画を、毎日のようにくり返し観ていた健司の前に、ある日奇跡が起きる。

美雪が健司の目の前に突然現れたのだ。

その日から2人の不思議な共同生活が始まった。

モノクロの世界しか知らない美雪にカラフルな現実世界を案内する健司。

同じ時間を過ごす中で、2人は次第に惹かれ合っていく。

しかし、美雪にはある秘密があった。

現実世界に来るための代償で、人のぬくもりに触れたら美雪は消えてしまうのだ。

そんな中、美雪は映画会社の社長令嬢・塔子(本田翼)が健司に想いを寄せていることを知る。

好きだから触れたい、でも触れられない・・・。

この切ない真実に2人はどう向き合い、どんな答えを出すのかーーー

(映画『今夜、ロマンス劇場で』ストーリー)

時代は昭和35年。僕はこの時代に生まれていないし、本やテレビで見知った情報から推測せざるを得ない。

恐らく当時の映画は作中でも描かれていたように市民の貴重な娯楽であり、興奮すれば叫ぶし、感動すれば泣く。恐らく食べ物や飲み物(ときにはアルコール)を持ち込んでもとやかく言われない大らかな時代だったのだろう。

映画館

そんな時代に映画監督を目指して下積み貧乏生活をしていた健司。

彼の日常の癒しは映画館・❝ロマンス劇場❞で観る古いモノクロ映画だった。

この世に数多存在する映画のほとんどは時が経てば忘れ去られてしまう。内容だけではなくて、存在すらも。

健司はこの古い映画に登場するお姫様・美雪に恋をしていた。生きている時代が違うし、スクリーンの中と外という絶対的な隔絶があるため、彼の一方通行の恋であることは明らかであったが・・・。

ある日、物好きなコレクターが美雪の出ている日本唯一の映画のフィルムを買い取ることを知る健司。

土砂降りの売却前夜。お姫様を見るのもこれで最後かと涙ながらにスクリーンを見つめる健司だったが、今夜の上映はいつもと少し違っていた。美雪がこちら側の世界に興味を示しているような素振りをしているのだ。

映画は残酷にも進み、外で雷がひと際眩しく光った瞬間に停電する館内。

なんとスクリーンから美雪が現れたのだ。映画の中と同じモノクロな姿で。

 

印象に残ったシーン

人のぬくもりに触れると消えてしまう存在

現実世界に飛び出した美雪はわがまま放題に健司をこき使うが、それでもひるまず自分を一心に見つめる彼の姿に特別な感情を抱いていく。

しかし、いつまで経っても美雪は何となくよそよそしく、偶発的に手が触れたりするような場面でも不自然にこれを拒絶し、回避するというような違和感を感じる演出が続く。

彼女には重大な秘密が隠されていた。それはモノクロの世界から現実世界に飛び出してくる代償として、❝人のぬくもりに触れると存在が消えてしまう❞というもの。

手

美雪がそれほどまでに大きい代償を覚悟して現実世界に来たのは「健司に会ってみたかったから」であり、映画公開が終わってからは誰にも観てもらえなかった自分をただ一人毎日飽きもせずに観てくれた健司に「見つけてくれてありがとう」という感謝とも愛情とも考えられるセリフを呟いている。

少しずつ、そして確実に大きくなっていく健司に対する恋心。健司も自分のことを想ってくれているのも感じている。

でも、触れられない。どんなに大切に想おうとも触れたら消えてしまう存在を愛してくれるのだろうか。

この不安が美雪の心の大部分を蝕み、健司に対して素直に接することができなかったのだ。

 

触れられなくても愛することはできる

上に関連するところだが、健司は美雪から❝人のぬくもりに触れたら消えてしまう存在である❞という独白に対して、「触れられなくても一緒にいたいです」と覚悟の言葉を力強く放つシーンが印象的である。

美雪は健司の覚悟を受け入れながらも、この恋心を昇華させるために最後に抱きしめてほしいと懇願する。

ここで抱きしめてストーリーを締めくくるのが王道であるし、誰も健司と美雪を責めたりしないだろう。

が、健司は震える声で「できません」。どこまでも純粋で真っ直ぐな言葉。この先どんな困難が待ち受けていようと、触れられないことに障害を感じようと、自分は美雪と生きていきたい。

この意思表明が胸に刺さった。

作中には健司の数十年後の姿と当時と変わらない姿の美雪が登場する。彼らの間には人ひとり分のスペース。

何らかの事故で触れてしまわぬように。自分たちの覚悟を貫き通すように。

何十年も続けてきたふたりの不文律。本物だよ、その愛は。

 

最後に触れてもいいですか?

いつまでも若い姿で年を取らない美雪とは対照的に、健司は相応に年老いていく。

そして、生命としての最後❝死❞を迎える。

美雪は「最後に触れてもいいですか?」と健司の弱り切った手を握るシーン。そして、初めて人のぬくもり、いや、最愛の人のぬくもりに触れて消えていく。

そうなるとわかっていても、美雪の目には健司のいない世界が最初から存在しなかったんだろうな。

 

まとめ

映画館で1回、そしてAmazonPrimeで2回目の視聴となったが、恐らく何年後かに繰り返し観ることになるんだろう。

脚本の出来もさることながら、配役が完璧だった。誰もが活き活きと作品を構成する不可欠の存在で、味がある。

一見いけ好かなかったり軽薄な人物でも最後にはほろっとさせるような人情を感じさせるのが上手い。悪者は存在しないので、最初から最後まで安心してみることができ、それでいて飽きさせない。

ぜひ多くの方に観てもらいたい1本としてお勧めしたいところである。

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