先日、AmazonPrimeを漁っていたところ『めしばな刑事タチバナ』というドラマを見つけました。
漫画原作が出ているのは知っていましたが、ドラマ化しているとは・・・。
試しに観てみると、これが面白い。
内容を簡単に言えば、主人公の警察官タチバナが仕事はほどほどに世の中に溢れるB級・C級グルメについて熱くディープな議論を繰り広げるというもの。
原作は気になっていたものの、絵柄がなんとも暑苦しくて手を出せずにいたんですよね。
絵柄が暑苦しくて警察官が主役・・・。
国民的漫画のひとつ『こち亀』に通じる部分があるじゃないですか。
そんなこんなで現在(2019年5月8日)時点で最新33巻まで出ている『めしばな刑事タチバナ(トクマコミックス)』を1巻ずつ取り上げて不定期に更新していけたらと思いますので、興味のある方はお付き合いいただければ幸いです。
『めしばな刑事タチバナ』ってどういう漫画?
登場人物は基本的に警察官5人のミニマムなお話
3巻から登場人物一覧を抜粋。
立花
本作の主人公で、元は本庁勤務のエリートで40代独身。ある事件が原因で城西署に左遷された。
「めしばな」は基本的にタチバナ中心に展開されるが、彼の知識は余りにも幅広く、ファストフードやチェーン店、スーパーやコンビニで簡単に手に入るレトルト食品や冷凍食品、果てはスイーツまでB級・C級グルメのことならば知らないことはないといっても過言ではない。
一方で高級な料理は縁遠く、後に紹介する五島(ごとう)が高級フレンチやワンランク上の価格帯の商品の話に参入してくると付いていけなくなる。
自分の食の好みを論理的に展開し、相対する意見に対して酷評することもある。だからといって他の料理を否定することはせずに一定の理解を示す懐の深さを見せる。
五島(ごとう)
家柄も育ちもいいお坊ちゃんで、城西署で警部補を務める。立花と行動することが多く、適度にツッコミを入れて話のテンポを整えるペースメーカーでもある。
立花が好むようなB級・C級グルメは未食のものが多く、ジェネレーションギャップもあってか話に取り残されることも多い。
しかしながら、比較的自由のきく大学生時代にインスタント食品やファストフードをそれなりに体験したことを元に立花の話についていこうとする姿勢は好印象だ。
村中
むさくるしい男ばかりの城西署レギュラーの中の紅一点。
食について熱く語る上司や同僚に冷ややかな目線を送りつつ、的確なツッコミを入れる貴重な存在。
署内の甘い物好きのメンバーを集め、立花を名誉顧問に据えた❝甘味部❞の発起人でもある。
韮沢(にらさわ)
立花たちの上司で、城西署の刑事課長を務める。
食に対する知識は立花が抜きん出ているが、特定の分野における造詣の深さは彼に匹敵するものがある。
独身で自由気ままな食道楽を貫く立花とは対照的に、現在妻と別居中で単身生活を強いられているという境遇から悲哀を帯びた「男のひとりメシ」を感じさせるが、食に対する執念やひたむきさは立花と通じる部分がある。
食の好みについてしばしば立花と対立するが、年代が近いこともあって素直に意気投合する場面も見られる。
今野
城西署の副所長。
食へのこだわりは少なからずあるものの、立花や韮沢のような深い知識や探求心は持たず、話についていけないことも多い。
しかし、彼らの言葉に興味を持ち、自身のストライクゾーンに入った球には目敏く反応する強さがある。
『めしばな刑事タチバナ』1巻所感
第1ばな カレーかつ丼
オレの目には初めから春菊天しか・・・なにィ!
記念すべき最初のお話は、本庁勤務のエリート・立花警部が何故城西署に左遷されたかを紐解くもの。
巻を重ねるにつれて登場人物の表情が柔和になっていくが、この時点ではまだ暑苦しさが色濃く残る。
数ある飲食店の中から富士そばをチョイスする立花。
春菊天、コロッケ、ごぼ天そば・・・。どれも美味しそうだ。我が親愛する東海林さだお大先生も著書の中で「富士そばのメニューの中で春菊天そばが一番好き」と書かれていた。
僕が富士そばに行ったのは数えるほどしかないけれど、次回行くときには春菊天そばと心に決めている。
この後、第9ばなから第12ばなの4話にもわたって繰り広げられる「立ち食いそば大論争」の前哨戦にもなっている。
ちなみに第1ばなのお話の展開としては、順当にいけば上記3種のメニューの中から今日の昼メシを決めることになるはずが、不意に目に入った「カレーかつ丼」に目を奪われ、思わず即断してしまったという流れ。
これが何故左遷につながるかは作品をぜひ読んでいただいて確かめてほしい。
1+1は3じゃない!2でいいんだよ!
↑このコマが特に印象的で、「そこそこのカレー」と「そこそこのかつ丼」を組み合わせたら、「そこそこのカレーかつ丼」ができたことを❝1+1=2❞と表現している。
このコマにこそ『めしばな刑事タチバナ』の本質があるような気がしてならない。
料理は化学反応というけれど、劇的に1+1=3にも4にもなるようなことは高尚な料理人の世界だけで行われていればいいのであって、普段の生活では旨いものと旨いものを足せば大体旨くなるし、そこそこのものを足したらそこそこのものになるのだ。
その安心感こそ手が伸ばしやすいチェーン店の本質であり、日常との融和の架け橋になっているものなのだろう。
第2ばな・第3ばな 牛丼サミット
時は牛丼戦国時代
牛丼チェーンといえば、「吉野家」「松屋」「すき家」の御三家。
他にも京風うどんや親子丼も有名な「なか卯」、最近店舗を減らしているものの❝焼き牛丼❞という新たな一石を投じた「東京ちからめし」等々。
今は牛肉も豚肉も値段にそれほどの差はなくなってきているが、昔は❝牛肉=高いもの❞というイメージが強く、その高級食材を使った牛丼を200円台後半~300円台前半で提供するチェーン店の台頭で牛肉、ひいては牛丼の位置づけがずいぶん変わったように思う。
↓吉野家一号店に行った記事なので、お時間のある方はどうぞ。
今は亡き『牛友チェーン』
「牛丼サミット」の中でもこれらの有名チェーン店の名前は登場し、特色について軽く触れられているが、メインとなるとは『牛友チェーン』なる牛丼屋。
↑あんた、それでも警察か・・・。
立花曰く、「牛友チェーンはもうこの世に存在しない」そうで、調べてみると牛友チェーンの系譜を引いた『牛八』という店舗が東京品川区の大手町に唯一現存しているとのことだった。
ネットの評価を見るに「牛友チェーンとは似て非なるもの」という意見が大勢なようだ。
他にも「牛丼太郎」も登場する。
↑立花が牛丼太郎を訪れたときに供された飲み物がまさかのカルピスだったというお話。
普通は水、凝って麦茶かノンフレーバーティーといったところだろう。
店員さんの気まぐれか、あるいは倒産を予期させる白昼夢だったのか・・・。
牛丼太郎は既に倒産し、解散してしまったが、社長自らが精鋭を募り、現在は茗荷谷で「丼太郎」として息づいているそうだ。
なお、銀座にある「牛丼太郎」はかつての牛丼太郎とは全くの別物である。
牛丼を食べるのは年に数回であるが、この漫画の求心力は凄まじく、茗荷谷まで牛丼太郎を食べに行こうと本気で思ってしまうくらい没頭してしまった。
第9ばな・第10ばな・第11ばな・第12ばな 立ち食いそば大論争
健康志向!梅もとの薬膳天そば
第1ばなで『富士そば』が出てきたが、メインはカレーかつ丼なので、本格的な立ち食いそばについては4話にもわたる大論争が繰り広げられることになる。
物語はこってり濃厚ラーメンを食べすぎて最近太り気味の立花が「❝健康といえば❞これ」と自信を持っておすすめする立ち食いそばチェーン『梅もと』の薬膳天そば。
350円という価格ながら、玉ねぎ、人参、ネギ、にんにく、クコの実、松の実などの滋養強壮に効果がありそうな薬膳かき揚げが載った逸品。
ここに韮沢が現れ、「梅もとは丼とそばを組み合わせた❝丼セット❞を食べるところだ」「丼セットを注文しない奴はモグリだ」とまで言い張り、壮大な議論が始まる。
小諸そば、富士そば、ゆで太郎も引き合いに出した熾烈なB級グルメ論争だ。
とどまることを知らない議論の末に、立花は「立ち食いそばの歴史を語ろう」と提案。
梅もとでのイチオシは薬膳天そばだったが、立ち食いそばというカテゴリーの中で最もおすすめなのは・・・
立ち食いそばの歴史を語る
『吉そば』のえび天そばと言い放つ立花。
これを聞いた韮沢は、確かに吉そばのそばは実力派ではあるが、海老天が丼からはみ出てしまうような豪快さはないし、最近流行りの茹でたてそばではなく茹で置きであること、天ぷらも揚げ置きであることを指摘して困惑する。
「立ち食いそばの本質」とは何だろう。
つるつるシコシコの蕎麦粉、ひいては蕎麦の実の風味香る本格派が求められているのか。蕎麦湯を飲んでほっと一息ついてしみじみ味わうものなのだろうか。天抜きにして天ぷらのサクサク感を楽しむものなのだろうか。
答えは否。
それら本格派のそばを食べたければ、頑固親父が丹精込めて手打ちする蕎麦屋に行けばいい。そして、そういったそばが旨いのは重々承知だ。
しかし、我々が立ち食いそばに求める一番大きな要素は、すぐ出てきてすぐに食べられることだろう。
貴重な昼休みを潰さないように、終電間際に「腹減ったな・・・」という欲求を簡単に満たしてくれるように、茹で置きでも揚げ置きでもいいのだ。そこそこ旨ければ。
つるつるシコシコじゃなくても、立ち食いそば特有の❝ぼそぼそ感❞というか❝だふだふ感❞。
これこそ立ち食いそばの本領なのではないだろうか。
まとめ
全てのお話を紹介したいくらいに共感と新発見の連続で、読み進めるのが本当に楽しい漫画だ。
ちなみに1巻では上で紹介したもの以外に、「袋入りラーメン」「コロッケカレー」「フライドチキン」「餃子」が収録されており、余すことなく飯テロを炸裂していくので、興味のある方は是非読んでほしい。
そして、第2、第3のタチバナが世に生まれてほしいものだと切に願うのだ。