うたかたラジオ

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嗚呼、清々しいまでの凡作『ラーメン侍』をAmazonPrimeで視聴したのでレビューする

『ラーメン侍』

この映画を知っている方はいるでしょうか。

ラーメン侍

(https://eiga.com/movie/56847/)

つい先日、どうしても暇な夕方に、例に倣ってAmazonPrimeを物色していたところ発見した映画タイトルであり、明らかな地雷臭を感じながらも視聴をいたしましたので、今回はその感想を書いていこうと思います。

先に言っておきましょう、

どの辺が❝侍❞なのか未だ行方不明。ラーメンの湯気の中にでも消えたのでしょうか。

あらすじ

突然の訃報を受け、父のラーメン屋を継ぐ決心をした光(渡辺大)は、東京のデザイン会社をやめ、故郷の福岡・久留米に帰ってくる。

店は相変わらず繁盛していたが、光は自分が選んだ道に自信がもてずにいた。

 そんなある日、母・嘉子(山口沙也加)とかつての活気をすっかり失った屋台街を訪れる。

嘉子が光に語ったのは、無鉄砲な昇に振り回され、貧乏のどん底だったが面白おかしく生きていたあの頃の思い出。

父はどうしてラーメン屋を始めたのか、そのラーメンにはどんな思いが詰まっていたのか?

幼い頃には想像もしなかった父の想いに気づいた光は、やがて記憶を頼りに父親の味を再現しようと試行錯誤を始める。

それは光にとっての「ラーメン」、そして自分自身の「夢」と向き合うことでもあった。(ストーリー|映画『ラーメン侍』公式サイト [2012年4月7日 全国公開決定])

映画は、現代(といっても平成2年)で光が久留米で地元の住民に愛されるラーメン屋『弾丸ラーメン』で不出来な弟子に喝を入れるシーンから始まる。

ぐらぐらと湯立つ豚骨スープの寸胴の前で雑談をする最近の若者風の2人の弟子。

寸胴からは細く白い煙が流れ出ている。

異変に気付いた光が弟子のもとに駆け寄ると、スープは焦げ付いてしまい売り物にならなくなってしまっていた。

スープがダメになってしまったのは臭いを嗅げばすぐにわかる、白い煙が上がる前に青白い煙が焦げ付く直前のサインなのだ、と。お前たちが気付くと信じて任せていたが、ここまで無頓着だと思わなかった、と。

スープはもう使えないので、この日は営業中止。その後、光は弟子たちを店の裏に呼びつけ叱り飛ばす。

弟子たちは「もうやってられん」と店を辞める。

ラーメン一筋でやってきた頑固オヤジは厳しいなぁという場面から始まるのだが、光は元々東京でグラフィックデザイナーとして働いており、父の訃報を受けて急遽店を継ぐことになったという。

「ラーメンとグラフィックデザイナーにどんな関係が?」という疑問は作中で解消されるので安心してほしいい。

しかし、その転換があまりにも唐突というか、確固たる地盤はあるとはいえポッと出の息子が店を預かり大繁盛させるというのは話が上手すぎるものの、その点はあえて突っ込まずにおく。

なにせ父親・昇も包丁すらまともに握ったことがないほどの料理素人であったが、ひょんな事からラーメン屋を始めたという経緯があるので、「熱意があれば何でもできるんやで」「そして、結局は血筋と才能なんやで」という残酷な事実を突きつける夢物語としてみればよいと思う。

その後の展開をダイジェストで語ると、

「光が父・昇の店を継ぐ」

→「母親から昇が❝屋台❞という営業形態に拘り、味と価格に奔走した歴史を聞く」

→「親父の味を再現したい。いや、親父の味に自分のアレンジを加えてオリジナルのラーメンを作りたい」

→「できた!親父と同じ屋台の経営するでー」

→「(関係各所)そんなん許可してまへんで、すぐに止めさせるんや!」

→「オレはやるんやでぇ・・・!見てろよ、親父!」

という展開である。

このダイジェストだけ見て「ああ・・・これは観なくてもいい奴だ」と思われた方、非常に賢明である。

どうしても時間があって暇なときに頭を空っぽにして観るのであればお勧めだ。

とはいえ、「別に観なくてもいいよ」では寂しすぎるので、以下では作品の見せ場をいくつか紹介しておきたい。

 

作品の見せ場

破天荒な父・昇

主人公・光の父親である昇は、母・嘉子に出会うまではテキヤで生計を立てていた。

嘉子に出会って一目惚れした昇は彼女と交際し、トントン拍子で結婚に漕ぎつける・・・と思いきや、嘉子の父親に「お前さんは何の仕事をしているのか」と聞かれる。

それはそうだ、大事な娘を嫁がせるのだもの。しっかり養ってもらわなければ。

対する昇はとっさに嘘を吐く。「久留米でラーメン屋やってます」と。

この嘘を後付けで本当にするべく、昇はラーメンの研究に没頭する。ド素人が0から始めるのだから、そう簡単にうまく行くはずもない。

なんだかんだがあって昇は小さな屋台でラーメン屋を始めることになり、幸いなことにたちまち人気が出る。

しかし、酒・暴力・女が大好きな昇はやりたい放題。酒を飲んでは酔っぱらって暴れ、店の風紀を乱す客には鉄血制裁。周りの屋台で不届き者が現れたときも「昇ちゃん、助けて!」の声に推ボッコボッコに。

せっかく稼いだ屋台の収益は、壊した物の修理代や怪我の治療費に消えていく。

稼いでは消え、稼いでは消え。まるで『こち亀』の両津勘吉を見ているようである。

この昔ながらの❝オヤジ像❞が見ていて爽快であるし、そんな馬鹿なと思いつつも「客に安く腹いっぱいラーメンを食べてほしいから、これ以上の値上げはしない!」と頑固にこだわるところに一本芯の通った心意気を感じる。

 

豪華キャスト

作品に登場するヤクザの親分・森田役に故・津川雅彦氏、光が働く東京の広告会社で上司役として登場するのは「ラーメンの鬼」と呼ばれた、故・佐野実氏。

光の願いを聞き入れ、現代に弾丸ラーメンの屋台を復刻した木工職人・山村役に西村雅彦氏、メンマの材料になるタケノコ獲りの名人菊川役に鮎川誠氏、数少なくなった屋台を経営するベテランママ黒柳役の淡路恵子さん等々、謎に豪華なキャストで驚かされる。

 

人に恵まれる主人公

暴れん坊の頑固オヤジである昇は確たるラーメンの味や憎めない性格から周囲の人間から愛され、支えられて屋台の経営に邁進していく。

ひょんなことから弾丸ラーメンのお手伝いとして一緒に働くことになった「きな子」、そしてきな子と生き別れになっていた柳川一男も共に屋台を盛り上げていく。

  • 冒頭で光の店から追放されたやる気のないバイト→「あれから色んな店を渡り歩きましたけど、親父さんほどラーメンに熱心に向き合っている人はいませんでした!」と改心
  • 他の屋台で暴れていたチンピラ2人→昇が包丁を手渡して「これで存分に戦え」→チンピラ2人はビビッて改心
  • ヤクザの親玉の森田→なんだ、話せばわかるおじさんじゃないか

凄く安っぽくてわかりやすい展開ばかりだけれど、登と光を取り巻く久留米の人々が妙に人間臭くて人情に溢れており、彼らに支えられて弾丸ラーメンが成長していく様は気持ちがよかった。

 

総評

やっぱりお時間に余裕のある方だけ観ましょう。
 

まとめ

どうも週末時間があるときは本能的に良質な邦画を探し求める傾向があるのだけれど、ときには明らかな地雷を踏み抜いてみるのも楽しいものだと感じる。

『ラーメン侍』に関しては無理に観る必要はないとの結論に落ち着いたのだけれど、偶然にも視聴した奇特な方とは語り合ってみたいなと思えるほどに不思議な魅力を持つ凡作であることを付記しておく。