ようやく夏暑さがひと段落して、通勤電車に乗っている間も単なるクールダウンだけではなく、読書や音楽を聴いたりすることに使えそうな今日この頃です。
先日なんとなく音楽を聴いていて流れたのがRADWIMPSの曲でした。
ご存知の通り、映画『君の名は。』の主題歌・挿入歌で一躍有名になったRADWIMPSですが、ひと昔前は「ああ、バンドのね」「BUMPみたいなグループね」と言われることが多かったように思います。
僕が彼らの曲を聴き出したのはメジャーデビューしてアルバムが出た頃なので、2005年くらいでしょうか。
最近の曲ももちろん素晴らしいのですが、RADWIMPSといえば独特の歌詞の言い回しや耳に残る特徴的なギターソロ、そしてボーカルが編み出す女々しくてなよなよ系で狂気すら孕んだ(一応すべて誉め言葉です)言葉たち。
様々な解釈ができそうな歌詞が気になって何度も繰り返し聞きたくなります。
そんなRADWIMPSの全曲から個人的なベスト20を選抜して紹介していきたいと考えまして、その前提としてベスト10に入るものを個別で歌詞考察していこうと思います。
ちなみに歌詞の考察は順不同であり、先に紹介したから特にお気に入りで、後に紹介するのは順位が低いとかではないので、あらかじめご承知おきください。
最初に紹介するのは、メジャー3枚目のアルバム『アルトコロニーの定理』から『ソクラティックラブ』です
ソクラティックラブ歌詞考察
愛し合うのに理由はいるのか?
分かり合ってるふりはいいから 所詮僕らはアリスとテレス
なのになんでどうしてなぜ今日も 君はアルキメデス
絡み合って突っつき合うのにも理由がないといけないのならば
その手放して 走って 裸足で探し出してきたげるよ
(「ソクラティックラブ」作詩:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎)
歌い出しからいきなり『アリストテレス』だとか『アルキメデス』のような高名な学者の名前が並んで独特の世界観を作り出しています。
ご存知のように、アリストテレスは古代ギリシャの哲学者であり、❝万学の祖❞と呼ばれるほどに様々な分野で類稀な知見を有する天才。
一方、アルキメデスは哲学とは対極に位置する数学や物理をはじめとした科学分野の天才です。
ここでよく歌詞を見てみると、最初のフレーズに含まれているのは「アリストテレス」ではないことに気がつきます。❝アリス❞と❝テレス❞という二人の人物なんですね。
「絡み合って突っつき合う」から二人の人物が男女であり、深い仲であることが伺われます。❝アリス❞が女性で、❝テレス❞が男性だとしましょうか。
また、「分かり合ってるふりはいいから」とあることから、アリスとテレスは似た者同士ではあるけれど根っこの部分では大きな相違があるように見えます。
アルキメデスである「君」=アリスは愛し合うのにも何か理由があるはずだと科学者のようなことをいつも言う論理派なのです。
しかし、「僕」=テレスは愛し合うのには理由はいらないというロマンチストの哲学気質。
理由という得体のしれないものも探し出してみせるさと意気込むテレスを一歩引いた目で見ているのがアリスなのでしょう。
本心を曝け出す怖さ
So I'm gonna sing this harmony cuz I'm mystic don't wanna scammony
does anybody really wanna follow me? McCartney leads "let it be"
now open up your mind and be retarded like this is your final
chance to have your dirty spermies out out out
(「ソクラティックラブ」作詩:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎)
「僕は神秘論者だから、❝スカモニア❞は必要なかった。だから僕はこのハーモニーを奏でるんだ。
誰も僕の本質を理解しようと思っていないって?マッカートニーは❝なるようになるさ❞という真理を導き出したんだぞ。
さぁ君の心を開いて、子供じみててもいいからこれが最後のチャンスだと思って君の汚い本心を曝け出してみなよ。」
拙い和約になりますが、言わんとすることはなんとなくわかってもらえると思います。
❝スカモニア❞とは何だろうと調べたところ、強力な下剤のことなんですね。体内の汚れた物質を根こそぎ排出するそうです。
テレスは汚かろうと何だろうとアリスに自分の本心を曝け出して、本質的に理解し合いたいと考えていますが、アリスの考えは違うようです。
スカモニアが必要ないくらいにオープンなテレスと、頑なに本心の吐露を抑えているアリス。似ているようで本質的には違うという部分が強調されています。
「寂しさ」と「悲しさ」が僕らを引き寄せ合った
寂しさの隣に君がいて 悲しさの隣に僕がいた
寂しさ悲しさ手を繋いで 僕ら二人を会せたんだ
四人で並んで歩けばいい 手と手繋いで歩けばいい
一人よりも二人よりもほら 賑やかで楽しい方がいいから
(「ソクラティックラブ」作詩:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎)
人として生まれたからには、「寂しい」とか「悲しい」という感情は自然に込み上げてくるものです。
もしかしたら二人が出会った当時はアリスの「寂しい」はすごく不器用な形で隠されていたのかもしれないですね。
でも、アリスの「寂しさ」とテレスの「悲しさ」という本来外からは見えない負の感情に惹かれ合って今の二人がいるならば、これからも「寂しさ」と「悲しさ」も一緒に未来に連れて行った方がきっと賑やかで楽しく過ごせるんじゃないかと言っているんですね。
❝僕❞って一体何だろう?
君は僕を愛しいと言うけど それは僕のナニを指すのだろう
僕を僕たらしめるのが何なのか 教えてよ
例えば 顔が半分に 腕が二、三本に 眼が五等分にちぎれちゃって
脳みそが隣人に 声が宇宙人に アレが人参に変わっちゃっちゃったとしても 君は僕だと言えるの?
僕の何が残っていれば 僕なのだろう?
(「ソクラティックラブ」作詩:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎)
哲学的なテレスは、君が僕の何を好きになって一緒にいてくれるのか不安になってしまいます。
「人を思いやれる優しい性格が好き」
「話していると落ち着く声が好き」
「綺麗な髪の毛が好き」
「大きくて丸い目が好き」・・・
アリスはテレスのことを愛しいと言ってくれるけれど、何かのきっかけで僕の性格が変わって、外見も似ても似つかないようになってしまったとしても、君は変わらず僕を愛してくれるだろうか。君は僕を❝僕❞と認めてくれるだろうか。
どこかでテレスはアリスに負い目を感じており、自信を失いかけていることが伺えますね。
今はもう確かめる術はない
あなたの想い確かめたくて 今日も一人で追いかけるよ
届かないとは知っているけど だからあのときは 泣いたんだ
だけどその言葉の何処かに あなたが隠れているのならば
無理やりにその点と点を繋げて あの星座みたいに
その心の形を分かった気にさせて
(「ソクラティックラブ」作詩:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎)
ここでテレスのアリスに対する呼びかけが❝君❞から❝あなた❞に変わっていることに気づきます。
アリスは既に手の届かない場所、もしかしたら亡くなってしまっているのかもしれないですね。
だからこそ今となっては「あなたが僕のどこを愛してくれていたのか」、そして僕がどうしても気になっていた「僕を僕たらしめるものは何か」を確かめる術がなくなってしまったのです。
それならせめて、あなたが遺してくれた言葉にあなたの本心が隠されているならば僕の心は少しだけ救われるだろう。
あなたの言葉を紐解いてみよう。
不器用な彼女が遺したもの
ペガサスもクジャクもオリオンも 言われたってんなの分かんないよ
乙女も牛もヤギもコンパスも どれ一つそうは見えないんだよ
あのあたりが時計の針だって どっから見ても無理があんだろ
もしもあれが双子の一人だって 言うならば俺は何にだって
(「ソクラティックラブ」作詩:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎)
ここでは❝僕❞の一人称が❝俺❞になっています。言葉遣いも歌い出しの頃から比べて随分と乱暴になっている印象。
これは大切な❝あなた❞を失って、半ば自暴自棄的に❝あなた❞の言葉からヒントを見つけ出そうと必死になっている様子が見て取れます。
天空に輝く星座にはそれぞれ逸話が用意され、「〇〇座」と名を受けて人々の目を楽しませていますが、予備知識もなしに空を見上げてもそれらの星が一体何の形を成しているのかは分からないですよね。
ここには❝僕を僕たらしめるもの❞に繋がっていて、星座を構成する星の一つ一つを見てみてもそれが何らかの意味を持つものではなくて、その星群全体ではじめて一つの星座なんですよね。
だからといって、一つの星が欠けたからといって星座の同一性は失われないでしょうし、一つ星が残ってさえいればそこに同一性を見出す人もいるでしょう。
さて、最初の「ペガサス」と「クジャク」と「オリオン」から見ていくと・・・
(https://www.study-style.com/seiza/autumn.html)
星座同士を点と点で繋いでみると、このような形になりました。アルファベットの❝L❞に見えないこともないですね。
この調子で「おとめ座」「おうし座」「やぎ座」「コンパス座」を繋ぐと、4辺に囲まれた四角形が現れます。アルファベットでいうと、❝O❞。
「とけい座」は一つなので点と点を繋ぐことができないかと思いきや、時計の針のように長針と短針で❝V❞字型をしています。
最後に「ふたご座」の双子の一人の解釈ですが、
(https://www.zero-co.com/seiza/guide/gem.html)
双子が仲良く内側を向いているのですが、一人でいるときは首の向きとしては不自然なので反対側を向きます。そうなると、アルファベットの❝E❞になるわけです。
見つけ出したアルファベットを並べてみると、L・O・V・E(愛)。
普通だったら「隠されていた文字は愛でした~」なんて恥ずかしくてむずむずするところですが、不器用で理論派なアルキメデスな彼女は自分の愛する天文に想いを載せて最後の言葉にしたと考えたらなんともロマンティックじゃないでしょうか。
アリスの本心は❝愛❞でした。
そこには理由も何もなくて、アリスはひどく困惑していたのでしょう。数学のように最後に唯一の解答が出るわけではない❝愛❞。そんな不思議な存在を彼女はどうしたものかと思い悩んでいたのでしょうか。
ただ、一つ言えるのは最後の最後でアリスとテレスは愛の解釈について少しだけ歩み寄れたということです。
総評
作詞作曲を手掛ける野田氏によると、この曲をアルバムに入れるかは非常に悩んだといいます。
理由は完成に非常に時間がかかったということですが、彼自身の過去の辛い思い出と重なり合う部分が多く苦悩が大きかったとのこと。
歌詞に出てくる❝君❞と❝僕❞は一緒にいる間はすれ違っていたけれど、離れ離れになって手が届かなくなってから彼女の秘められた想いが❝僕❞の心を突き刺してもっと歩み寄れたかもしれない、もっと優しくできたかもしれない、とやり場のない喪失感や後悔に打ちひしがれている様子がありありと伝わってくるようです。
非常に完成度が高く、何度も繰り返し聴いて解釈を深めるべき曲の一つだと思います。
まとめ
以上のような形でRADWIMPSの曲を楽しみながら独自に色々と解釈していきたいと思います。
あくまで一つの解釈として、「いやいや、そこはこう考えるべきだよ」というようなご意見がありましたら気軽にコメント等していただければ大変うれしいです。