映画を観るのは数カ月ぶりで、こうしてレビューを書く感覚も忘れかけていますが書いていこうと思います。
『ぼくらの7日間戦争』。
数十年前、あまりにも有名な実写映画が放映されていますが、その作品のアニメ版ですね。
ずるい大人たちに反抗して、子供たちだけの特別な時間を過ごす・・・。青春ですねぇ。
大人になると変なしがらみにがんじがらめにされて下手なことってどんどんできなくなりますからね。誰もが平等に経験した子供時代に多少の無茶はしてみるものだと個人的には考えています。
ぼくらの7日間戦争
あらすじ
主人公の鈴原守は重度の歴史マニアで、歴史について話す機会があれば饒舌になるが、それ以外はしどろもどろな冴えない男子。
そんな彼が想いを寄せているのは、隣に住む幼馴染の千代野綾。しかし、彼女は父親の仕事の都合で1週間後には東京に引っ越さなければならないことを知る。
引っ越しの日は彼女の誕生日であり、彼らの夏休みの初日。守は綾に渡す誕生日プレゼントをこっそり買っていた。
いつも控えめで主張しない綾の口からこぼれた言葉。
「17歳の誕生日は、この街で迎えたかったな」
その言葉を聞いた守は勇気を振り絞って言う。
「・・・逃げましょう!」
守るとしては大好きな女の子との逃避行になるつもりだったのだが、実際に計画実行されたのは綾を引っ越しの魔の手から守るバースデーキャンプ。
綾の親友・山咲香織、クラスの爽やかイケメンの緒方壮馬、相馬の腐れ縁の阿久津紗希、紗希に「このままじゃモヤシになっちゃう」と半ば無理やりに連れてこられた弁護士志望の本庄博人が参加することになった。
同じクラスメイトとはいえ、全員が元々友達というわけでもなくちぐはぐで不思議な組み合わせだが、そんな彼らの特別で刺激的な7日間が始まる。
登場人物紹介
公式ページから画像をお借りしつつ、登場人物の紹介をしていこう。
鈴原守(すずはらまもる)
歴史が大好きな地味な男子。クラスメイトに対してだけでなく、幼馴染の綾にまで敬語を使うあたりがかなりのコミュ障である。
隣の家に住んでいる綾に片思いしているが、持ち前の自信のなさからなかなか気持ちを伝えることができず、自分が行動した際の「居心地のいい幼馴染の関係が壊れてしまうのでは・・・」という恐怖が先行している。
さすが歴史好きというだけあって、かつて戦争で用いられた兵法を熟知しており、作中での活躍の機会が多い。隙あらば延々と歴史語りをし、周囲を置いてけぼりにするのもご愛嬌。
今回のキャンプのリーダーとして頼りないながらも奮闘する姿が印象的である。
千代野綾(ちよのあや)
本作のヒロイン。控えめでおとなしく、素直で純真。
父親は地方議員をしており、東京で前線を退く某議員の跡を継ぐために今回の引っ越し騒動が持ち上がった。
父親は傲慢で高圧的な性格であり、そんな父親に逆らうことなく暮らしてきた綾。東京なんて行きたくない、そんな控えめな主張も彼女にとっては一大決心だったことだろう。
山咲香織(やまさきかおり)
日々部活に打ち込むスポーツ女子。綾の親友である。
活発で元気で、友達も多い。男勝りな性格だが、男子たちからの評判も悪くないようだ。
一見悩みなどなく、真っ直ぐに青春を楽しんでいるようだが・・・?
緒形壮馬(おがたそうま)
イケメン枠。スポーツ万能で喋り上手い。女の子からはモテモテだが、それを鼻にかける様子もない。
性格までできているのか、と素直に賞賛したくなるが、彼は彼なりに苦労しているようだ。
阿久津紗希(あくつさき)
ギャル枠。「今が楽しければいーじゃん」を地でいく無敵系女子。
ノリで行動して向こう見ずに映るが、彼女なりに色々考えてのことのようだ。彼女がいれば場が和むというムードメーカーとして必須である。
本庄博人(ほんじょうひろと)
ガリ勉枠。将来の夢は弁護士で、日々の受験勉強にしか興味がない様子。周囲との間に壁を作っており、歯に衣着せぬ物言いで損をすることも多いだろうと感じる。
普段は冷静沈着だが、いざとなったときの行動力や機転の利くところはさすがであり、仲間たちも彼を輪に入れて楽しくキャンプを過ごしたいが、なかなか難しそうだ。
映画を観る前の印象と観た後の印象
正直全くのノーマークであり、たまたま有休を取った日に久しぶりに映画を観たいなと思ったときに偶然目に入ったのが『ぼくらの7日間戦争』であった。
80年代後半に小説を原作とした実写映画が放映されていることは多くの方が知るところであろうし、僕は映画を一度だけ観たことがある。
当時の価値観だからこそ「管理教育に抑圧されていた中学生が教師や大人たちを相手取って反抗(戦争)を起こす」というテーマが受けたのであって、現代でそれはなお受けるのかという印象を抱いたし、最近のアニメ映画の作画の著しい向上を目の当たりにしていると、個人的に食指の動かないキャラデザだなというのが本心だ。
しかし実際に映画を観てみると、前者の歴史的な問題についてはSNSによる情報の拡散や現代っ子っぽい言動を表現するなど上手く現代風味にアレンジされており、後者についても観ているうちに違和感が薄れていったというか、「映画で動いている方が断然いいな」と気になるどころかむしろ味のあるタッチに感じられた。
ここでネタバレにならない程度の感想(ネタバレは次の見出しで書きます)を記しておくと、作品の中盤辺りまではイマイチ盛り上がりに欠け、大人への反抗・綾の願いを叶えることを口実にお気楽キャンプに出掛ける高校生をだらだらと追いかけているような印象である。
当然の流れとして、最初は大人たちに見つからずに楽しいだけのキャンプが徐々に明るみに出始め、キャンプ地に立てこもる。必死に抵抗はするけれど、やはり大人の実力は子供の想像のはるか上を行くものであって状態としてはじり貧。
窮地に追い込まれてからは仲間割れが始まるという流れ。それほど仲がいいわけじゃなく、なんとなく面白そうだから参加したキャンプがこんなに大きな問題になるならもう辞めたい、となってくる。
ここからが上手くて、わずか90分という時間を使って必要十分で納得できる展開に持って行くところは素直に感心した。
分かりやすく言えば、序盤~中盤まではせいぜい15点、後半でぐぐぐと盛り返して60点か65点まで盛り返したかなという印象。
序盤があまりにも単調というか、高校生特有の青臭さや痛さが目立ち過ぎてちょっと気恥ずかしさもあったのもあったが、全くワクワク感がなかったというのが残念である。
しかしながら、全体としてみると十分に人にお勧めできる作品ではないかと思う。
以下ネタバレになります。
作品のネタバレをつらつらと
上で書いたように、話の流れとしては、綾の17歳の誕生日を守るため、普段あまり面識のないクラスメイトがキャンプを企画して山奥の廃工場で過ごしていたが、いつまでも大人たちの目から逃れられるわけもなく、綾の父親は必死になって娘を連れ戻して東京に向かおうとする。それに対抗するというのがメインテーマ。
という線だけではなく、本作では「マレット」というタイ人の子供が登場する。マレットは平たく言えば❝不法滞在者❞であり、廃工場に主人公たち同様無断で忍び込んで生活していた。
不法滞在にも理由がある。マレットの両親は仕事があると唆されて日本に来たものの、そこにあったのは低賃金長時間重労働の劣悪な労働環境。母国に帰る費用もないことから悪条件の労働に従うしかなかった。
マレット一家は廃工場のある山の麓のあばら家で生活していたが、他の住民は不法滞在者として逮捕されてしまい、父母の近況は不明。彼らの帰りを待って一人廃工場での生活を強いられているのだった。
最初は綾を匿うキャンプだったが、マレットを入管の手から守るというのが2本目の線になる。
そもそも理由があるとはいえ不法滞在者を匿うことは決して正しいこととは言えないし、赤の他人のために犯罪の片棒を担ぐというのもその場のノリというか、あまりにも軽率な行動だが、主人公たちにとっては入管≒綾を狙う大人として排除の対象になったのだろうと納得しておく。
綾とマレットを大人の手から守るため、侵入者をあの手この手で撃退する様が物語中盤まで続いていくのだが、廃工場に置かれているものを使っているのでいちいち危険なのだ。
侵入してきた大人たちの道を阻むために高速で走るトロッコで壁を作ったり、梯子で登ってきた人を角材のようなもので突き落とすだとか、クレーンで高所に移動させるだとか。
結局こういった大人への反抗、青春の一幕を後になって振り返って笑うならば、「大事に至らないこと」が必須だ。
「いやー、あのときオッサンを角材で突き落としたけど、下にいた別のオッサンが受け止めたから大丈夫だったんだよな。」
だからいいが、
「オッサンを角材で突き落としたら、当たり所が悪くて死んじゃったんだよな・・・」
では話にならないわけだ。
「あのとき反抗して、一時停学になったけど今は無事にサラリーマンやって、家に帰れば嫁と子供が・・・」
なら笑えるが、
「アレがきっかけで高校退学して、その後も後ろ指刺されながら生きてきて、一家離散、碌な職にもつけずに今は生活保護だよ・・・」
ではダメなのだ。
いくら子供の特権❝無茶❞でも、普通に人が死ぬようなことを平気でしているのは表現がドぎついような気がした。
最初はこうしてなんとか大人の手から逃れてはいるが、大人が本気を出せば一網打尽にされるのは時間の問題である。
廃工場の中にこもるしかない主人公たちはじり貧。余裕がなくなってきて仲間割れを起こす。
これに追い打ちをかけたのはSNSでの写真の拡散だ。綾の父のドライバーを務めている男が綾以外の写真をSNSに流すと、彼らの過去を知るネットの住民たちから心内誹謗中傷が噴き出してくる。
山咲香織の父親は工場勤務。権力者である千代野議員に仕事を回してもらうべく、香織は娘の綾に擦り寄っていった。偽りの友情だ。
緒形壮馬は中学生の時はいじめられっ子。高校生になって随分印象変わったね。
本庄博人は表では真面目に見えるけど、裏では言いたい放題。ネットのログを晒せばこの通り・・・
疑心暗鬼になっていく。本当の自分は曝け出さずに、薄っぺらい人間関係でつながった高校生がここにいるだけ。結束力なんてものはない。この窮地を脱せるわけはない。
自分たちの裏の顔を暴露されて疲弊。マレットを引き渡して降参しようのムード。
そこで守が一言。
俺、言えなかったこと言います。千代野綾さんがずっと前から好きでした。
これを受けた綾も自分の心境を吐露する。
私は守君にずっと勇気づけられてきました。私も今まで胸の内に秘めていたことを言います。私は香織が好きです。友達としてではなく、恋愛の対象として好きです。
!!!
あ、そういうのもあるんだね。守はすっかり噛ませ犬。
博人も感情を発露させる。
親の言う通りに勉強に打ち込んできたけど、本当は仲間と一緒に遊びたい。こうしてキャンプに誘ってくれたのも本当は嬉しかったけど、素直になれなかった。
壮馬は中学の時にいじめを受けていて、転校している。今はすっかり一新された環境で昔の自分を捨てて生活しているけれど、真実を周りに打ち明けることができなくてつらかった、と。
香織は確かに最初は父親を守るため、自分の生活を守るために綾と仲良くしていたけれど、綾と過ごす時間があまりにも輝いていてどんどん綾に惹かれていった。
そして最後に紗希。
ずっと隠してたけど、綾が東京に行くの、ずっと羨ましいって思ってました!
うん、かわいい。ギャルにしてはあまり目立たずパッとしないなと思っていたけど、裏表のない可愛い子じゃないか。
と、皆隠していたことを暴露して、今までの薄っぺらい関係よりも距離がグッと縮まったところでラストに向けお話は展開されていく。
最初は淡々と進んでいくキャンプの様子があまりに薄味で物足りなく感じていたが、それが彼らの関係の希薄性を表現していたのだとすれば、非常に考え抜かれた構成といえるのではないだろうか。
去年の「カメラを止めるな」ほどではないけれど、イメージとしては似ているだろうか。前半しょぼしょぼで後半盛り上がり、その落差が評価できるという感じ。
他に語っておくことと言えば、SNSでのコミュニケーション特有の「顔が見えないし自分にコンタクトする手段も限られているんだから何を言ってもいい」という危険思想が詰め込まれていて、そこはリアルだった。
普段自分もTwitterなどを利用しているが、全く赤の他人に噛みついている様子を見ると「そんな必死にならなくても・・・」と思うし、過剰に反応しすぎな層も見られる。表現は非難を伴うとはいえ、あまり自然な状態とは思えないな。
もっと頭からっぽにみんなが楽しめたらいいのにね。
そうそう、キャラデザがあまり得意ではないという話をしたけれど、背景の書き込みは目を見張るものがあった。この映画を何故夏に公開しなかったのかは分からないが、青い空、白い雲、揺れる緑の木々、どれもイキイキしていたし、工場内の備品のリアルさも是非見ていただきたい。
まとめ
子供の失態は親が全部取ってくれるから、彼ら自身は好き勝手に権利を主張するだけでいいように見えるけれど、彼らは彼らなりに悩んで、生きづらさを感じながら日々を過ごしている。彼らの見る世界は大人が思うよりもずっと複雑で混沌に満ちているのだろう。
誰しも経験している子供時代だからこそ、この作品で何かしら心に響き得るものがあるのだろうと思う。