『おっさんずラブ』というドラマが一時期話題になり名前は知っていたのですが、特に視聴することもなく2019年9月を迎えまして、今ちょうど劇場版が公開されています。
(劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~ - 映画・映像|東宝WEB SITE)
昨今叫ばれている『LGBT』を題材にしたメッセージ性のある作品なのかなぁ、そう考えていたのです。
ドラマも見ていないし、特に映画を観に行く理由もないなと考えていたのですが、とある知人が最近『おっさんずラブ』にドはまりして、ドラマ一気見+映画館ダッシュを決め、僕にしきりに勧めるので半ば仕方なく観始めたのですが、これが面白い。
僕も一日でドラマを視聴し終え、その足で映画を観てきましたので、感想を綴っていきたいと思います。
前置き
あらすじに入る前に前置きをしておくと、ドラマは大変面白かったのだが、気にかかる点も多く、ドラマ単体で見ればせいぜい100点中55点くらいの評価であったことを言っておかなければならない。
何がそんなに気にかかったかというと、「主人公の軸がブレブレで、言動に一切責任を持たない身勝手で空っぽの人間に見えたこと」である。
ドラマ冒頭で主人公・春田(33歳独身・実家暮らし)が合コンに参加し、ダダ滑りした後に酔い潰れて後輩の介護を受けながらタクシーで運ばれていくシーンがある。
女性との出会いを求めて度々合コンに参加しているのであろうし、自ら「俺はロリ巨乳が好きだ」と公言しているように、この段階ではドラマのタイトルにあるような『おっさんずラブ』が展開されるビジョンは見えない。
しかしながら、ある瞬間から春田モテモテ人生(男祭り)の幕が開ける。
春田が勤務する不動産会社・天空不動産で類稀なるリーダーシップを発揮し、部下を牽引して能力を引き出すカリスマを持つダンディな既婚男性・黒澤部長。
まさか彼が部下で男の春田に対して10年来の恋心を内に秘めた乙女だったとは...。
偶然春田と黒澤の手が触れ、秘められた恋心は爆発する。
黒澤部長は、「俺がちゃんとするまで(離婚するまで)待っていてくれ」と本気である。
まず、ここで春田に対する僕のマイナスポイントが一つ。
いやいや、そこでまず断れたでしょ?
戸惑うのはよくわかる。信頼していた上司がまさか同性の自分を恋愛の対象に見ていて、いきなりバラの花束を手渡して好きだと言ってきた。それは戸惑うよ。
でも、その場で「上司として、人間として尊敬していますが、恋愛対象としては見れないんです。すみません」。その一言は言えないものなのだろうか。
作中で頻繁に「春田はお人よし」と表現されているが、迫られてその気もないのに「ええ?どういうことですか?ちょっ、ちょっと待ってもらえますか?」はないだろうと。
お人よしというか、優柔不断で押されたら自分が何と思っていなくても強く否定できないナヨナヨした男に見えて仕方がない。
その後もはっきりした態度は取れずに(気持ちが少しでもあればいいんだけど...)、周りにアドバイスを受けて初めて言葉にできるというのが33歳の男にしては情けない。
一度断っているけれど、なんだかんだあってなし崩し的に黒澤部長と結婚式を挙げるシーンが物語終盤にある。
結婚式で神父が「誓いのキスを」。極めてプラトニックな関係である2人はキスをしたこともなかった。
ここで春田が「(あれ?俺が好きな人は黒澤部長じゃない...?)」とキスに躊躇するが、これを見た黒澤部長は「神様の前では嘘はつけないよね」「思いを伝えてこい、春田」「行け―!!」と発言。
ここの黒澤部長が本当に格好良くて、感動した。その反面、
なんでこんな詰めの段階になるまで言えなかったの?
と春田に対する失望は凄まじかった。
「披露宴はキャンセルしたから」という黒澤部長の言葉を鵜呑みにする春田。実際にはキャンセルなどしておらず、春田を好きな人の元に走らせる口実だったのがまた部長のいじらしさだ。
これはいかに結婚式が部長任せで春田に気がないことの証左である。自分の人生に無関心すぎないか。そして、人の想いを踏みにじり過ぎ。
そして、春田は後輩の男・牧に会いに行く。
牧は春田のルームメイトであり、何度も春田に好意を伝えているが煮え切らない態度でかわされ続けていた。「好きとかは分からないけど、一緒にいてくれ」という春田の言葉に生殺しの悶々とした生活を送っていたことだろう。
自分のことを大切だと言ってくれる割には黒澤部長に強く出れなったり、幼馴染のちづに言い寄られてなびきそうになったり、
春田、お前はいったい何様なんだ。
と言いたくなる。
苦悩した牧は何度もルームメイトを解消することを告げたが、その度に春田の泣き落としに負けてずるずると...。
春田が黒澤部長に別れを告げた後、牧が「俺と付き合ってください」と意を決して告白した時も「ハイ...付き合うのが何を言うのか分からないけど、ハイ」とあまりに軽はずみでうんざりだった。
自分の気持ちに整理が追いつかないのは分かるけど、とりあえず流されるのは止めた方がいいよと言ってあげたい。
先ほどの黒澤部長の結婚式の話に戻る。いったん付き合い始めた春田と牧が喧嘩別れして、何故か黒澤部長と春田は同棲することになる。
そして、黒澤部長に「結婚してください」とプロポーズされて、またその場の雰囲気に押されてよくわからないまま「僕でよければ...」と承諾。
そこからの逃走、「俺、やっぱり牧のことが好きだ」。
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これが僕のドラマ減点理由のあらましである。
ちなみに、映画は春田の芯が定まってドタバタラブコメに徹していたので、ドラマと映画の総合評価としては85点くらいと爆上がりした次第である。
映画『おっさんずラブ LOVE OR DEAD』
あらすじ
永遠の愛を誓ったあの日から1年が過ぎ、上海・香港勤務を経て帰国した春田創一。
久しぶりに帰ってきた天空不動産東京第二営業所では黒澤武蔵をはじめ、お馴染みのメンバーが顔を揃え、最近配属された新入社員・山田ジャスティス(志尊淳)も加わり春田を歓迎する。
そんな彼らの前に、天空不動産本社のプロジェクトチーム「Genius7」が突如として現れ、リーダーの狸穴迅(沢村一樹)は、本社で新たにアジアを巻き込む一大プロジェクトが発足し、東京第二営業所にもその一翼を担うように通告する。
その隣には、本社に異動しチームの一員となった牧凌太の姿も...。
何も知らされておらず動揺する春田だが、本社と営業所の確執が深まるほどに、牧との心の距離も開いてゆく。
一方、コンビを組むことになったジャスティスは兄のように春田を慕い、さらには黒澤もある事故をきっかけで突然❝記憶喪失❞に...!
しかも忘れたのは春田の存在のみ。
...え?どゆこと?そんな記憶喪失あんの!?
混乱する春田をよそに、黒澤は❝生まれて初めて❞春田と出会い、その胸に電流のような恋心を走らせてしまい...。
そんな中、天空不動産を揺るがす前代未聞の大事件が発生!
それに巻き込まれた春田にも最大の危機が迫る。果てして春田の運命は...!?
笑って泣けるこの夏最高のエンターテイメント!おっさんたちの愛の頂上決戦<ラブ・バトルロワイアル>が、ついに幕を開ける。
ドラマの最後で春田と牧は互いの気持ちを確かめ合い、無事恋人になることができた。
春田は営業の手腕を見込まれ上海勤務を命ぜられるが、二人の絆で遠距離恋愛も乗り越えられるだろう。幸せなキスをして終幕...から続く劇場版。
続く、と言ってもドラマの延長線ではなく、ファンディスク的なハートフルドタバタラブコメディと表現するのが適切かと思う。
先述したように、僕が映画も込みで考えるならば85点としたのは、ひとえに春田が大好きな牧に向き合い共に将来に進んでいくために葛藤したり悩みぬいたりする様が存分に描かれていたからだ。
天性の人たらしが、ようやく自分の足で立ち上がり、大事な人との未来を描く。
こういうのが観たかったんだ。
とはいえ、手放しに「面白かった」と言えるかは疑問な点もあったので、以下では本作品の良い面と悪い面に軽く触れて総評につなげたいと思う。
良かった点
正統派ラブコメ要素
春田は牧に一途だが、新たな刺客ジャスティスや記憶喪失で春田の記憶を失ったにもかかわらず新たに春田に恋をする黒澤部長が入り乱れて混戦状態になるのが見ものである。
特にサウナでの春田の取り合いや、うどん屋の倉庫でのジャスティスと部長のバチバチの闘争は見ものである。
何もかもを忘れて単純に面白い。10かいくらい繰り返してみたいくらい。
僕が映画を観たときは座席の9割程が埋まっており、女性客8:男性客2くらいの割合だったが、女性陣の「ドゥフゥー!」「ドゥフフフ!」という笑い声が漏れていたのもこれらのシーンであった。
みんな、BL好きねぇ...(姉御感)。
多様な愛のカタチ
本作では様々な愛の形が登場する。異性間の恋愛、同性間の恋愛、年の差恋愛、熟年離婚の末の恋愛...。
当然ながら異性間の恋愛が圧倒的マジョリティであり、本作のテーマ『同性間の恋愛』は異端として捉えられることを否定できない。
今でこそ同性パートナーシップに取り組む自治体が登場したりLGBTに対する議論も盛んになされていることから、昔に比べて比較的理解の芽は出てきているように思える。
とはいえ、世間的に認められているとはまだまだ言えず、偏見や好奇の目で見られる実態であろう。
一方で、本作に登場する恋愛はそれがどのような形であれ、批判する人間は存在しない。
厳密に言えば、批判的な意見を持つ人はいるけれど許容しようとするキャパを持つ人間だけの優しい世界なのだ。
こんな世界だったらみんな幸せに暮らせるのにな、というパラレルワールドに没頭させてくれる貴重な作品だ。
悪かった点
あまりに雑すぎた『DEAD』要素
タイトルの『DEAD』は、春田が会社の闇を暴くために単身取引先に乗り込んで無事に拉致監禁され、そこから命からがら脱出するという部分にかかっていると思われる。
時限爆弾の線を切ったら爆発までの時間が24時間から10分になっただとか、爆発寸前に時限爆弾を外に投げ捨てるだとか、あまりにも雑な盛り上げ方。
あくまでおまけとして爆発炎上を絡ませているのだろうが、どうでもいい要素にしろもう少し現実味を持たせてもよかったのでは。
とりあえず全員くっつけとけ論
優しい世界なのはいいが、春田と牧をくっつけて、うたまろと蝶子、ジャスティスと令嬢、ちづの兄とマイマイ、部長と武原さん(恋の予感)とアラレちゃんの最終回よろしくとりあえず全員くっつけとけはやはり雑な気がしてならない。
総括
映画に関して気になる点はいくつかあったけれど、そのドラマが些細でどうでもいい点であり、全体としてみれば非常にまとまったお祭りのような作品である。
時間を置いてまた観たいと思えるし、サウナや蕎麦屋での一幕は今すぐにでも繰り返し観たいくらいだ。
春牧フォーエバー!フォーエバー!だお!
まとめ
全くノーマークの作品だったが、圧倒的吸引力でドラマ→映画と駆け抜けてしまった。
頭を空っぽにしておっさんたちのイチャイチャをにやにや楽しむべき本作。ドラマファンの方には申し訳ないが、どうしても気になる点だけあげさせてもらった。
おっさんずラブが気になっている方は是非映画込みで視聴していただきたい。
どうせ観るなら映画公開してる今ですよ!