8時過ぎに新宿駅を出発し、10時に最初の目的地である沢井駅に到着しました。
澤乃井園清流ガーデンに直行して豆腐ナゲットで軽くお腹を満たしてから軽く周囲を散策。
10時半から利き酒処でちびちびと日本酒を飲んでいたら、酒蔵見学の時間まであとわずかとなりました。
まだまだ始まったばかりの奥多摩探訪第2幕のはじまりはじまり。
↓前回の記事はこちらから。
小澤酒造のルーツを辿る旅
遅刻ギリギリの酒造見学
酒蔵見学は事前予約制で、インターネットから気軽に応募できる。定員に余裕があれば後日案内のメールが届き、当日清流ガーデンの売店で受付表をもらう。
時間がないぞ、急げ―急げ―!
あってよかった連絡通路。これがなかったら❝詰み❞でしたわ。
建物入り口の酒樽。いや、もちろん見学が終わった後撮ったのだけれども。
一旦この酒々小屋に集合して社員さんの講義を受ける。
1回の見学の定員は40人で、11時の回以降は全て満員だ。みんな昼くらいからゆっくり集まってくるのだろう。
そうそう、集合時間ギリギリに来た自分が最後かと思いきや、後から何人か遅れてきたので少し安心した。
講義では小澤酒造の歴史から始まり、「澤乃井」の由来、酒林の作り方、1日の適正飲酒量、これから回る酒蔵の概要など。
社員の方の語りが饒舌なので、聞いていて飽きないし面白い。
実りをもたらす山の神々に感謝
酒蔵入り口。足元には消毒用の浅いプール。ここで靴の底を濡らしてから、いざ中へ。
米や水など気候によって生産量や品質が変わるものを原材料にする酒蔵では、神に対する感謝を忘れないよう神棚が至る所に設置されている。
ちょっとお邪魔しますね。
ひんやり涼しい蔵の中
元禄蔵
既に30度近くあるであろう外気とは裏腹に非常に涼しい蔵の中。
先ほどの講師の社員さんが酒蔵のガイドもしてくれる。
「今日は暑くなるって聞いたから朝来てガンガンに冷房効かせたんですよ」と冗談交じりに言っていたが、実はこの涼しさは土造りの蔵特有のものであって空調には頼っていないとのこと。
夏は涼しく、冬は暖かい。現代の異常気象こそ土造りの建物が求められているのではないだろうか。
入ってすぐが『元禄蔵』と呼ばれる蔵で、名前の通り元禄時代からあるのだという。
小澤酒造の創業はなんと元禄15年(1702年)。赤穂浪士が吉良義央の屋敷に討ち入りした年だ。
そんな大昔からここで日本酒が製造されていたのか。
設備は時代と共に進化し、精米や醸造技術も受け継がれ洗練されてきたことだろう。
主流は鉄+琺瑯製の醸造タンク
先ほどからちらちら見えている円柱状の物体が酒を醸造するタンクである。
上の「219」が管理番号で、どのタンクでどの銘柄を製造しているかを把握しているそうだ。
下段の数字が容量。単位はリットルなので、このタンク1本で5,204リットル。一升瓶は約1.8リットルなので、このタンクには一升瓶約2,891本の日本酒が入ることになる。
古来は木の樽を使っていたが、現在の主流は鉄製で、内部は腐食防止の琺瑯加工が施されているそうだ。
もっとも琺瑯は外部的な衝撃でひびが入ることもあり扱いが難しいこと、鉄は手入れを怠ると鉄分が酒に漏れ出すことで変色の原因にもなりかねないため、それらの欠点を排除したステンレス製が望ましいそうだが、コスト的に難しい模様。
木の樽は趣深いけれど、どうしても木材を染みて酒が一定量漏れ出る危険があり、また当初企図した容量通りに作ることができないので、酒税法上も問題がありそうだ。
あとは増加する日本酒需要に対応して、木樽での生産が追い付かなくなったのが木樽衰退の要因でもある。
圧搾室と精米歩合
醪を清酒と酒粕に分離する部屋。圧搾機がズラリと並んでいる。
昔は布で分離作業を行っていたため、現代のパサパサとした淡白な酒粕と比べてもう少し水分含有量の多いゆるゆるしたもの(練り粕的なもの?)だったそうだ。
子供の頃は甘酒も嫌いだったし、「なんでこんなよくわからない物体を食べるんだろう」と思っていたが、今は粕汁も粕漬けも大好きだ。
精米の過程を表しているオブジェ。
我々が普段食べる白米は、玄米の表面部分を削って精米したものである。この精米の過程で削った度合いによって「精米歩合〇%」と表す。
ちなみに食用の白米の精米歩合は大体90%程度。そして、日本酒に使われる米の精米歩合は一般的に70%前後だ。
これが大吟醸を作るとなると精米歩合が50%を割るため、米の半分以上を削って捨てていることになる。
当然その分酒を造るための米の使用量は増えるわけで、大吟醸が高価な理由はそこにある。澤乃井の最高級銘柄である『凰』は精米歩合35%で一升1万円だ。
米の表面は旨味成分である脂質やたんぱく質で、それが多いのは大層結構じゃないかと思うが、酒を造る過程で旨味は雑味になり、いい酒にはならない。
それならもっと削って精米歩合5%にしたら旨い日本酒ができるかといえば、必ずしもそうではないというところが奥深い。
そもそも日本酒造りで多く使われている『山田錦』が食用としてはいまいちなのは、あくまで日本酒用に改良された品種だからだ。
主にここで日本酒を仕込む。杜氏たちの戦場だ。
最近は技術が向上して機械に任せることも増えたそうだが、大吟醸酒等は今も杜氏の方が熟練の技術で酒造りをしているとのこと。
これがステンレス製のタンク・・・。一体いくらするんだ・・・?
日本酒にビンテージの波?
ワインやウイスキーでは「〇〇年熟成のビンテージもの!」というように熟成品ほど高価で珍重されるイメージがあるが、日本酒は逆に新酒が有難がられているような気がする。
澤乃井でも蔵守を古酒として進化・発展させていく心積もりだそうだが、やはりまだ日本酒の古酒というものが一般的とは言えないので、「蔵守の会」に加盟している会員にのみ卸しているそうだ。
利き酒処のメニューに「蔵守」があり、飲んだこともある。古酒だけあって少しトロッとして蜂蜜のような、カラメルのような独特の甘い香りが特徴的だ。
前の記事にも書いたように僕は古酒が好みなようで、蔵守についても『芳醸参拾伍』と僅差くらいの位置づけにある。
手前が新しくて奥が古い。
そろそろ20歳になるものもあるのか。
日本酒の古酒が一般的になったときに、世間的に注目されることになるだろう。
外はすっかり夏の匂い
世にも珍しい横型井戸
蔵はここまで。外に出て仕込み水を供給する井戸を見学することになる。流石に4キロ離れた「山の井戸」ではなく、蔵の裏にある「蔵の井戸」だ。
この石垣を伝ってろ過されたものが井戸に溜まる。
小澤酒造の創業の話から製造技術の発展、時代と共に熟成されていく古酒、時間をかけてろ過される仕込み水。
壮大で感動してきた。自分と澤乃井の出会いはまだ4年くらいだけれど、これからも通い続けると思う。
井戸は普通縦に長く掘ってあるものだけれど、ろ過の仕組みを聞けば横穴タイプも納得である。
東京の名湧水の実力を見させてもらおう。
ここでも神に感謝やね。
入り口に向かって1枚。なんだか「プロジェクトX」みたいだな。
最奥部に到着。水澄み過ぎ。これは美味しいお酒ができるだろうな。
酒々小屋に戻り、生酒試飲
酒々小屋に戻って試飲の時間。生酒の「さわ音」だ。
ほぼ飲み切ってからの撮影になっているが、生酒の溌溂さとコクを感じさせつつ、サラッと消えていく飲みやすい銘柄だ。
講師の方が「日本酒の適正量は1日2合だけど、それだと酒屋さん困っちゃうんで、健康を害さない程度に飲んでくださいねっ!」と上手いまとめをして約45分の見学終了。
面倒臭がらず予約をしておいてよかった。毎年の蔵開きの時に感じる「来る側も招く側も日本酒が好きで澤乃井が好き」が伝わってきた。
この大きさの酒林は15,000円くらいするらしい。
昔の瓶の洗浄機。無駄のない合理的な構造をしていて感心する。
もうすぐ正午。人も増えてきたことだろう。
連絡通路を戻る。
澤乃井園で食べるべき二大巨塔
湯葉蕎麦
お土産に何か買っていこうと思ったが、これから荷物が増える見込みなので今回はスルーしよう。
飲みたいものは飲めたし、また近いうちに来るだろうし。
お腹が減ったので、昼食にしよう。注文はもちろん・・・
澤乃井園の『湯葉蕎麦』。650円というお手頃価格も嬉しい。
これから澤乃井園に行かれる方に是非食べていただきたい逸品。
蕎麦は茹ですぎず、硬すぎずちょうどいい茹で加減でコシがある。上に載ったたっぷりのネギとワカメ。紅白がめでたい蒲鉾。
そして、商品名にも入っている豪快な湯葉巻き。忘れてはならない牛蒡の鶏肉ロール。
ネギの香りを楽しみつつ啜る蕎麦。湯葉のモキュモキュした食感と独特の歯ごたえ、広がる大豆の甘み。関東風のそばつゆがキリリと引き締め、箸休めにワカメと蒲鉾をつつくのもいい。
ここで満を持してしっかりと味が染み込んだ鶏肉ロール。肉の密集、牛蒡の繊維感もいいんだ、これが。
バランスが本当に良い蕎麦だと思う。
酒饅頭と卯の花饅頭
蕎麦を食べ終え外も暑くなってきたため、利き酒処の下の階「ギャラリー」でひと休み。
ここで饅頭を蒸していて、いい匂いがするんだよなぁ。
そういえば、今まで饅頭は蕎麦などを注文するカウンターで現金で買うことができた。
今はおみやげ屋さんでパックで売られているそうなので、買って帰ってお楽しみにしよう。
↑可愛らしいパッケージだ。
澤乃井園の饅頭は「酒饅頭(1個100円)」と「卯の花饅頭(1個120円)」の2種類。
今回は卯の花饅頭にした。昔はおからもあまり好きじゃなかったけど、今は滋味深くて好きなんだよなぁ。
さて、次の目的地に向かう前に欲しかった酒器を買っておこう。
持っていたものが不慮の事故で割れてしまったのでね。
無事購入。買ったものは後で紹介することとしよう。
さて、次なる目的地へ向かおう。お隣の『御岳駅』まで。暑いけど、歩いていくよ!
まとめ
酒蔵の中には初めて入ったわけではないが、やはりプロの説明を受けながら見学するのでは印象が全く違う。
堆積する歴史の重み、将来への展望を含めて小澤酒造がさらに好きになった。
食べたかった湯葉蕎麦を食べ、卯の花饅頭を買って満足。
わざわざ歩いて御岳まで何をしにいくのだろうか。